思考力を高めるには、自分の「心の在り方」を意識することが重要です。
調査員には自分の心を把握することが求められます。
心理学とは、私たちの人間行動や体験についての理論や研究であり、心と行動の起源や機能を理解するための研究分野でもあります。
心理学は、自己管理の技法を学ぶことで、安全かつ有効な方法で協調した関係を築く能力の高まりに役立ちます。
また心理効果としては、社会的規訓や文化的背景などの特定の条件下で特定の意思決定を受ける傾向がある事も確認されています。
例えば、個人に対するソーシャルインフルエンスの効果が、 個人の意思決定や行動に、影響を及ぼす事が研究から明らかにしています。
このように私たちの判断や行動に、大きな影響を及ぼす心理学について見ていきましょう。
疑似心理学と心理学
心理学の発祥は古代ギリシャで、心理学は心という実体のないものを研究する科学でした。
一元論者のアリストテレス・二元論者のプラトン、デカルト
少し哲学的な話になりますが、心と体の関連についての定義として一元論と二元論がありました。
一元論は心は体の機能であるとし、二元論は心と体とは相互に関係しあい、互いに原因となり、結果になっているとしました。彼らの考えは以下の通りです。
- 一元論者のプラトンの弟子であるアリストテレスは、心自体は私たちの頭の中にある大脳とそれに属する神経系や内分泌系の働きに他ならないと考えました。
- 二元論者のプラトンは、人間は体の他に独立した心というものを持っていて、人間の体と心は大脳の中にある松果体で連絡し合っていると考えていました。
- 二元論者のデカルトは真理というものは人間が生まれながらにそなえている理性によって探求されるものであると考えました。
その後に出てくるジョンロックはアリストテレスの考えを汲んで、人間は生まれつき善悪や真偽の判断をする働きを持っているわけではなく、経験によって習得されるものであると考えました。
ここまでが心理学の始まりとなります。
無意識が現れる
19世紀の初め頃に、ドイツのヘルバルトが初めて無意識ついて触れています。
人間の心は、はっきりしている層とその下にある全く気づかれない層に分かれていて、はっきりしている層が意識で、全く気づかれない層を無意識としています。これはフロイトの無意識とは全く異なった考え方です。
19世紀の半ばになると、ヤングヘルムホルツの三原色説やウェーバー・フェヒネルの法則など、効果を測定するという心理学の前身である精神物理学が盛んになり、この他にも聴覚・味覚・皮膚・感覚などの領域で精神物理学は新しい科学である心理学へと進化していきます。
この動向を内観法をベースにした実験心理学でまとめたのが心理学者のヴントで、人間の意識を内観法によって捉え、意識がどのように組み立てられるかを知ろうとする立場を取りました。
フロイトとユング
この段階でようやく、フロイトとユングが現れてきます。
フロイトは人間の心を3領域(意識と無意識、両者の中間的領域としての意識)に分けています。
ユングは意識の下層に個人的無意識と言う層をおき、さらに下層に普遍的無意識という層を置いています。
ここから認知心理学や臨床心理学等が出てきます。
認知心理学
視覚・聴覚・などからの情報を総合してそれは何かを把握する知的な機能を知覚と言います。
人口知能の発達によって、人間の高度な心的機能を情報処理することも盛んに行われるようになりました。
こうして認知心理学が生まれました。認知心理学のことを情報処理心理学とも言います。
認知心理学とは、あらゆる情報から人間が結果としてアウトプットするまでのプロセスのことを言います。
記憶は短期記憶と長期記憶に分かれていて、短期記憶はわずか数秒しか保持できないような記憶システムで、長期記憶は数分間から数十年以上にもわたり情報を保持できる記憶システムです。
思考のシステムについては認知心理学が得意な分野で、パターン認知・パンデモニアムモデル・トップダウン・ボトムアップの思考があります。
発達心理学
発達心理学の中には
- 動物心理学(動物の行動を発達という視座から研究していく心理学)
- 民族心理学(原始人の生活文化の研究)
- 個人発達心理学(人間の生涯における意識や行動の変化)
があります。
個人発達心理学には乳幼児心理学・児童心理学・青年心理学・老年心理学も含まれています。
IQ・EQ・SQ の心理学
知能検査の作成者はフランスの心理学者ビネーと医師のシモンで、これをビネー・シモン式知能検査と呼びます。
IQ を案出したのがアメリカの心理学者ターマンで、偏差値IQを作ったのはウェックスラーです。
1995年にアメリカの心理学者ゴールマンがエモーショナルインテリジェンスという本を出版し、EQブームが起きました。
EQとは
- 自分の感情・情緒生活をよく認知すること
- 自分の感情・情緒を統制すること
- 自分の周辺で起こったことを楽観的に考えること
- 相手の心の動きを洞察すること5対人関係をスマートに処理すること
です。
ゴールマンはEQ評価の思想が、IQ軽視になってはいけないとしたうえで、IQが高いだけではダメだと主張しています。
2000年にイギリスの哲学者ゾーハーと夫人の精神分析学者イアン・マーシャルがSQを提案しました。
SQとはSpiritual Quotientの訳で日本では魂の知能指数となっています。
SQは、意味や価値という問題を解決する能力で、広い豊かな視野に立って自分の行動や人生の意味を見出すことを強調しています。
欲求不満の心理学
欲求不満とは、ある欲求が外的・内的な欠乏・喪失・葛藤が原因で不満状態に陥った時の状態です。
・欠乏
- 外的な欠乏(目標となる事象が個人の周囲に見当たらない不満)
- 内的な欠乏(自分の方に何か問題があって生じる不満)
・喪失
- 外的な喪失(今まで実在していたものがなくなってしまったことによる不満)
- 内的な喪失(今まで持っていた心身条件を失うことによって生じてくる不満)
・葛藤
- 接近型の葛藤(同じレベルの欲求が二つ以上あり、どれか一つを選ばなければならない葛藤)
- 回避型の葛藤(マイナスの葛藤のどれかを選ばなければならない葛藤)
- 接近ー回避型葛藤(一つの物事に二つの葛藤が混在している葛藤)
- 二重接近ー回避型葛藤(接近ー回避型葛藤が重なってくるパターンの葛藤)
対人関係の社会心理学
対人関係の社会心理学のポイント
- 対人的相互作用の研究
- 実験社会心理学の発展
例
- 援助行動の心理
- 姿勢身振りの効果
- つり橋の上の恋
- ハイダーのバランス理論
- 認知的不協和の心理
- 命令によって人間はサディスティックになる
- 実験刑務所の心理学
- サクラに翻弄される心理
などが挙げられます。
大衆社会の心理学
大衆社会の心理学とは一般にいう社会心理学のことです。
例えば、宣伝・広告は暗示のような方法で大衆の感情に訴え、人々の判断を誤らせることを狙いとしています。
宣伝広告の条件
- 大衆の注意を引くことそこで有名なタレントがアイキャッチャーになったりクリエイティブな工夫が凝らされる
- 単純で分かりやすくすることが必要である。功徳説明しても駄目。若い人たちも国民健康保険に入りましょうでいいのである
- 同じ内容を反復することが必要である。ただしこの同じ内容というものが単純でわかりやすいものでなければならない。 テレビの情報がある時間間隔で反復されたり選挙の時に統一人物のポスターが同じ場所に数枚固めて貼ってあったりするのはその効果を狙ったものである
- 理性よりも感情に訴えることが必要である。知的な訴えよりも感情に訴えることである。他社の製品を使ってひどい目にあった人のことをそれとなく CM に入れると効果がある。アメリカの CM だと他社の車を叩き壊してしまう過激なものもあるが日本人はそういう CM を好まない。貶すならあくまでもそれとなくである。
- 威光による効果を利用すること。有名人は効果的である
- 受け手の欲求に合わせることも必要である。しかし大企業は大衆の欲求に火をつけている感がある
- 心理学では流行を新しい、あるいは奇異な事柄が大衆の間に急速に流行り、やがて飽和や常用化によって廃れていく運命を持つ現象であると定義している
・流行の現象の要因として
- 変化への欲求 (大衆が内蔵している変化への欲求を刺激して不断の消費を促していく)
- 斉一性への欲求(他の人々と同じように行動したい)
- 威光への欲求(権威者や有名人の髪型や服装を模倣すること)
- 自己顕示的な欲求(自己を目立たせる)
社会心理学者ル・ボンは1895年に有名な著書「群衆の心理」の中で以下のように著述しています。
・群衆の特徴として
①道徳性の低下
無責任になり衝動的に行動してしまう。個人の道徳性は群衆の中の一番低いレベルの物のラインに落ち込んでしまう
②被暗示性の高揚
暗示されやすくなってしまい正確な判断力が失われ創造性が激化してくる。このようなムードの中では当然心理的な感染も顕著になってくる。心理的な感染とは大勢の人々の間にある特殊な感情や思考が、言語や文字を用いないで伝わっていくことである。
③思考の単純化
思慮深い思考ができなくなってしまう。ものの見方や考え方が単純になり、知的なものよりも感情的なものの働きが著しくなってくる。 そして非現実的な創造によって左右される事態が出現してくる
④感情的動揺
感情の動揺が酷くなり興奮状態に陥ってしまう。ボスがある意図をもって群衆を扇動したらしたら国家が崩壊するような事件にまで発展してしまう
・心理学者ブラウンが指摘した群衆論
乱衆
- 攻撃的乱衆
- 闘争的乱衆
- 利得的乱衆
- 表出的乱衆
聴衆
- 偶発的聴衆
- 意図的聴衆
社会病理学
これは個人あるいはその集合体に起こる心身の障害を、人間社会の社会家庭と密接に関連させながら研究していく科学です。
- 社会解体(社会を構成する要素の制度・経済組織・人口などにアンバランスが生じてくると危険)
- アノミー(社会の急激な変動によって、大衆の欲求を統制する規範が弛緩、または欠如し、焦燥感や欲求不満が昂じていること)
- 社会的行動の逸脱や不適応(ずれた人間が多数地域社会に存在している、不穏な雰囲気が増大すると危険)
- 社会的緊張(欲求不満の人が多くなり、不快な情報が過多になってくると社会的な緊張が増大して危険)
- 社会的参加への不満(社会的組織や社会的行動に参加できない人たち、 あるいはそれを阻止された人達が多数出現してくると危険)
・非行や犯罪はなぜ起こる
- 素質としての非行・犯罪
- 環境からの非行・犯罪
- 素質+環境としての非行・犯罪
- 素質×環境としての非行・犯罪
まとめ
社会病理学などの例では、悲しい事ですが、まさに日本の現状を捉えていると思います。
このように心理学は幅広く社会に役立ってきています。
心理学だけでなく、全ての学んだ事が一つに集約されている事実は、一つの真理だと思います。
全ての学問を納める事はできないので、限られた時間の中で、少しでも自分の人生に役立つ情報を、取り入れていきましょう。