真言宗の開祖 空海の思想

空海は真言宗の開祖で歴史の授業でも取り扱うため多くの方がご存じかと思います。

しかし、日本では宗教教育が行われないため詳しく教えてもらうことはありませんでした。

そこで今回は日本人の思想に大きく影響している空海の思想について調査していきたいと思います。

仏教は脈々と受け継がれてきた

宗教は一人ひとりの信仰によって違いがあり、争いが絶えないと私たち日本人は感じます。

仏教も例外に漏れず海外では弾圧を受ける経験をしています。

例えばインドでは、11世紀頃にイスラームの侵入によって仏教は衰退していきます。

中国においても道教に心酔する皇帝の仏教弾圧による衰退、会昌の破仏によって仏教の経論は殲滅されたという歴史もあります。 

このような流れもあり中国では仏教よりも儒教を国教としています。

しかし日本においては6世紀頃から仏教の教えは広がっており、それがほとんど弾圧されることもなく発展してきました。

また他宗教を認めない宗教よりも、仏教は日本人の国民性にも相性が良かったことも、長い間愛されて来た理由です。

このように日本人にとっては思想の根源にあるとも言える仏教を、真言宗の開祖である空海を通して見ていきたいと思います。

空海の生い立ち

空海は774年に四国讃岐・多度郡に生まれ、幼少の頃から教育者であった叔父の阿刀大足から儒教や詩などを学んでいました。

15歳になると都に上がって、より一層学問に打ち込むようになり、18歳になると大学名経科に入って漢籍古典などを学んでいましたが、仏教に興味を持ち始めると大学も中退してしまいます。

24歳で「聾瞽指帰」を書くまでは、色々と悩みながら修業に励んでいましたが、「聾瞽指帰」を書くと共に仏教にその身を捧げる覚悟をします。※この修業中に密教の経典である「大日経」と出会う

30歳を過ぎると空海は遣唐使とともに唐に入ることとなり、ここでインド僧の般若三蔵・牟尼室利三蔵について学び、さらには恵果に入門し、密教の大法を伝えられます。

京に戻ると密教の布教を始め、「観縁疏」を書きます。

50台後半になると主著である「秘密曼荼羅十住心論」と、その略式の「秘宝曼陀羅」を書き残します。※曼陀羅とは広く円状のもの、すべてがそろっているという意

62歳で入定するまでに、香川県にある満濃池の修築工事、書道では嵯峨天皇・橘逸勢と並んで「三筆」と呼ばれ、加えては美術・言語学にも秀でた人物でした。

さらには日本最初の庶民教育機関「綜芸種智院(しゅげいしゅちいん)」を開き、教育の機会均等を実現させました。

「空海の思想に学ぶ 密教の真髄」

密教自体は7世紀ごろインドに興った仏教で、大乗仏教の理念を受け継ぎつつも成仏への修道をより優れた道として説いています。

密教の経典は大日如来が語ったものとされ、従来の仏教・儒教(顕教)の教えは浅く「密教の教えのほうが、より真実に近い教えだ」という考えが空海の密教です。

密教における多くの教えの中でも重要されるものとして「攘災招福」と「即身成仏」があります。

  • 攘災招福=災いを除き、福を招く。
  • 即身成仏=現世の内に成仏できること。

以上二点は現世利益の考え方です。

空海の十住心

「秘蔵宝鑰」(秘密曼荼羅十住心の簡略版)

  • 第一、異生羝羊心 凡夫の雄羊のような心、煩悩にまみれた心
  • 第二、愚童持斎心 愚かな少年が斎を持つ、つまり反省の機会を持って人間的に生きようとする心(儒教)
  • 第三、嬰童無畏心 嬰童すなわち赤ちゃんがお母さんのもとですっかり畏れ無く安心しているような心(バラモン教、老荘思想 )
  • 第四、唯蘊無我心 五蘊無我という、仏教の教理の基本の内容をよく了解し、我執を離れようとする心(声聞乗)
  • 第五、抜業因種心 十二縁起を観察して、業の因となる種が無明であることを了解して、それを抜く修行をしていく心(縁覚乗)
  • 第六、他縁大乗心 他者を縁ずるという大乗の心を起こし、世界は唯だ識のみと理解する心(法相宗、唯識)
  • 第七 覚心不生心 心は不生であるということを覚する心(三論宗、中観)
  • 第八、如実一道心 真如そのもの、法性そのもの(如実)の平等無差別の世界(一道)を覚る心(天台宗)
  • 第九、極無自性心 究極の絶対の世界も自性を持たず、それゆえ現象世界に翻る心(華厳宗)
  • 第十秘密厳心 我々には知られないけれども、自分の心にはすばらしい性質・性能、功徳がたくさん蔵されている、そのことが自覚される心(真言宗)

この「十住心」は10段階目の密教に行きつくために、各段階の解説がなされています。

修業としての六塵=四曼陀羅=三密

真言宗では「法仏平等の三密」としており、法はダルマ(存在を構成する要素)で、法と仏は平等であると言います。

それを踏まえて「眼・耳・鼻・舌・身・意」から人心に入ってきて心を汚すものを六塵、つまり私たちの感覚として得ることができる情報を言います。

四曼陀羅は「大曼陀羅(諸仏・諸尊・の姿・の輪円具足した世界)・三昧耶曼陀羅(諸仏・諸菩薩の象徴)・法曼陀羅(言葉の輪円具足)・羯磨曼陀羅(諸仏・諸尊の活動のすべて」の総称で、この世の真理を表現しています。

人間は「身・言・意の神秘的な働き」で成り立っており、それを「三業」と言い、これを仏の場合は三密と呼びます。

つまり真言宗は、修業として身密(手に諸尊の印契を結ぶ)、口密(口に真言を読誦する)、意密(心に曼陀羅の諸尊を観想する)を行うことで「即身成仏」することができるという事を説いています。

まとめ

空海はあらゆる面で秀でた才能をもった人物と評価されています。

その空海が選んだ仏教・密教はスピリチュアルとは言えない、論理的な世界をも表しているのかもしれません。

現に仏教は海外でも非常に注目されており、科学者からも非常に優れていると言われています。

宗教を信じるかの話は置いといて、心の働きを学ぶことは人生を豊かにする行為なので、一度は学んでおいて損はないと思います。

参考文献

「唯識・華厳・空海・西田 東洋哲学の精華を読み解く」 著 竹村牧夫

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