禅宗の三位一体論

「仏法則世法なり」

鈴木正三の思想は「禅」に影響を受けているのは確かですが、仏教家ではありません。

彼は自身の思想を「我法」と呼び「仏法」と自分の思想を明確に区別する意思を示しました。

彼の思想は現代に生きる私たちの思想に大きく影響を及ぼしていると言われます。

日本人としての心が失われている現代には良い薬になりそうです。

鈴木正三の生い立ち

鈴木正三が生まれたのは1579年、日本史上もっとも有名な事変といわれる「本能寺の変」の4年前です。

本能寺の変とは、日本全国を統一しつつあった戦国大名である織田信長が京都本能寺の滞在中、家臣・明智光秀の謀反により寝込みを襲われ、光秀配下の軍勢に包囲されたのを悟ると、寺に火を放ち自害して果てたという事変です。

鈴木正三は徳川家につかえる旗本として、「関ヶ原の戦い」、「大阪夏の陣」と戦功をあげた武人でしたが、後に禅僧となります。。その後、文官官僚的な役割も経験したのち、1620年に出家し、77歳でこの世を去るまで、禅宗の僧侶として執筆と布教活動に務めました。

鈴木正三の思想

鈴木正三の思想の始まりは、かつての日本では考づらかった「個」を明確に意識していたことから始まります。

この「個」とは自身の内なる心(性善説に基づく本心と欲望による悪心)の事を指します。

これには徳川家が戦国時代を治め、平和になるとどの国でも行われることですが、秩序を維持するために思想を統制しようとした時代であった事が影響しています。

これを踏まえると鈴木正三は現代の日本人の思想の基礎を作った人物であるとも言えます。

鈴木正三は混乱や無秩序状態を「病気」に例え、その病気のが原因となる三つの毒を「三毒」と言い、

  1. 貪欲
  2. 瞋恚(しんい:いかり・いきどおる)
  3. 愚痴

この三毒の中でも「愚痴」を最も大きな毒とし、三毒を満たすために煩悩を追求すると死ぬまで見るに堪えない状態になるとしました。

有名な百八煩悩も、この三毒から分かれ出たにすぎないとも言われています。

そして解決策として、このような状態になる原因を四つの心で乗り越えることを説いています。

  1. 苦を好みて楽として、真の楽をしらざる心なり
  2. 無常の理を知ずして、此世界に執着し、常の念をなす心
  3. 十悪八苦を躰を受、煩悩のきづなにつながれながら、自由の身と思ふ心
  4. 此身の不浄なる事を知ずして、清浄なりと思ふ心

※十悪=殺生・偸盗・邪婬・妄語・綺語・悪口・両舌・貪欲・嗔恚・愚痴

※八苦=生・老・病・死・ 愛別離・怨憎会・求不得・五陰盛の苦しみ

禅宗の三位一体論

三位一体論とはキリスト教の重要な教義の一つで、キリスト教の三位とは、父なる神、その御子のであるイエス・キリスト、聖霊は日本で言う守護霊のようなものです。

この別々の表現を区別しているが、本質的には一緒であると考えるのが三位一体論です。

では鈴木正三の考えはどうでしょうか。

鈴木正三は禅宗の三位一体論を説き、社会秩序を安定させるためには「月なる仏」(宇宙の秩序)、「本心である仏」(心の中の仏性)、「医王なる仏」(医師の働きをする)を三位とし、この三位を「本質である一仏」であり、【宇宙の本質】であると考えました。

また鈴木正三は華厳思想を世界最高の哲学としていたことからも、仏教には特に力を入れていたことが分かります。

「仏に二仏なく、法に二法なし」

社会秩序の十か条

士農工商として1人ひとりが人間らしく生活をするための方法として「盲安杖」には十か条があります。

  1. 生死を知て楽み有事を慥に知べし
  2. 己をかへりみて己をしれ
  3. 物事に他の心にいたれ、人を忘るる事なかれ
  4. 信有て忠孝を勤よ
  5. 分限を見分て其性々をしれ
  6. とどまる所を離れて、徳有事をしれ
  7. 己を忘て己をわすれざれ
  8. たちあがりてひとりつつしめ
  9. 心をほろぼして心をそだてよ
  10. 小利を捨て大利にいたれ

これは主に武士に向けて説かれたものですが、重要な教えの一つです。

鈴木正三の修業(「武士日用・農人日用・職人日用・商人日用)

武士日用・農人日用・職人日用・商人日用はそれぞれの職業人に対して、それぞれの道、仏行(修業)を説いたものになります。まとめたものを「四民日用」と言います。

例えば「農人日用」では「農業即仏行なり」と教えを説き、仕事観について「仏行=仕事」とし、仕事を日々懸命にこなして心身に隙(暇)をあたえなければ煩悩も増えないと考えています。(「身に隙を得時は煩悩の叢増長す」)

これもまた、陽明学の「事上磨錬」に通ずる、実践(仕事)の場で己を鍛えようとする姿勢によく似ています。

これらを踏まえて鈴木正三の仕事観について見ていきたいと思います。

鈴木正三の商人道

当時は武士社会であった為に商人は卑しい職業として見られていました。

「商人日用」ではそんな中、忙しく働く商人は「このような仕事に従事していては悟りを開くことが出来ない」と嘆きました。

それに対して鈴木正三は「先ずは得利の益すべき心づかいを修業せよ」とし、これをもって正直に商売する事ができれば自然に望み(成仏できる)は叶うとし、これに背き、私欲をもって仕事にあたれば多くの人から憎まれ、望みが叶うことはないとします。

さらに商売によって得る利益も、以上の教えを忘れず、結果(※利潤追求ではなく)として得る利益であれば富むことも問題ないとしています。

これを山元七平は「「カネと人間」を相手にした職業でなく、「農民は自然、職人は材料」を相手とし、一心不乱にやった結果として利潤が生じ、その考えが企業に浸透し、世界一になっても不思議ではない。」と解説しています。

「職人日用」には「商人なくして世界の自由、成べからず」とも書かれており、鈴木正三は商人・事業の有難さを理解しつつ商人道を説いています。

つまり鈴木正三は現代の資本主義の職業倫理観を作った人物であるとも言える人物なのです。

まとめ

鈴木正三の考えの中でも、商人道の教えは現代で通用しない点もあります。

例えば流通業や金融業は対象には入り得ないでしょう。

しかし基本的な考えは現代にも適応されます。

この倫理観をもって事にあたれば、もっと良いものが生み出されるはずです。

鈴木正三は言いました、「心学は仏法の華である」

参考文献

「勤勉の哲学」山本七平

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