易経は人生の場面ごとに、適切な行動を教えてくれます。
易経
「世に容れられなくても不満をいだかず、天を楽しみ命を知る」
「易経」は占いを書いた書物と呼ばれていますが、それ以上に重要な書物であるとする声もあります。
人によっては「人類史上最も優れた書物」と言う人もいます。
また神託などを説いている事から西洋の「聖書」が、東洋の「易経」と呼ばれる事もあります。
易経の簡単な説明は以前「四書五経入門」でしたので、今回はより実生活に役立つように深掘りしていきます。
易の基礎
・易の種類
易には「周易」、「断易」(五行易)、「梅花心易」と三種類あります。
「周易」は周の時代に文王によって作られており、易の基本的な呼び名です。
「断易」(五行易)は鬼谷子によって作られ、鬼谷子は算命学を提唱した人でもあります。
「梅花心易」は1040年頃に邵康節と呼ばれる人物によって作られました。
「断易」(五行易)、「梅花心易」は占いの手法にあたります。
・易の意味
易には①「変易」②「不易」③「簡易」を合わせて「易の三義」と呼ばれる三つの意味があります。
①「変易」 世の中の事物は常に変化している
②「不易」 世には絶対に変わらないものがある
③「簡易」 この世の変化するものには変化の法則がある。
そしてこれらを陰陽の符号によって表しているのが「八卦」です。
「八卦」をより詳しくしたものを「六十四卦」とも呼びます。
また、易経の中で最も重要な教えは「時中」です。
「時中」は「時を中する」、つまり何事にも場面・状況ごとにすべき事があり、それを成しえなければ何事もできないとされています。
・易経の読み方
易経は初心者が読むには難しいので、分けて読むポイントを簡単に説明しておきます。
ポイント①卦名と卦象
初爻~上爻を覚えておくと爻辞が読みやすくなります。
ポイント②卦辞
「元」「亨」「利」「貞」「吉」「凶」を基本に卦全体の吉凶を表す短い文です。
ポイント③爻辞
九は陽を指し、陰は六を指します。(乾為天と坤為地にはそれぞれ用九(陽の用い方)と用六(陰の用い方)があります)
ポイント④十翼(伝)
「彖に曰く~」が「彖伝(上・下)」、「象に曰く~」が「象伝(上・下)」、哲学的な解釈をする「繋辞伝(上・下)」、乾為天と坤為地に重きをおく「文言伝」、自然を表す「説卦伝」、六十四卦を要約した「雑卦伝」、六十四卦の並びの意味を書いた「序卦伝 」があります。
それぞれの卦に対して十翼(伝)が均一に備わっているわけではありません。
易の実践(乾為天)
乾は、元いに亨りて貞しきに利ろし。
初九。潜龍用うるなかれ。
九二。見龍田に在り。大人を見るに利ろし。
九三。君子終日乾乾、夕べに惕若たり。けれども咎なし。
九四。或いは躍りて淵に在り。咎なし。
九五。飛龍天に在り。 大人を見るに利ろし。
上九。亢龍悔あり。
用九。群龍首なきを見る。 吉なり。(「乾為天【爻辞】)
易には素晴らしい教えがありますが、最も実践的なモノが「乾為天」になります。
「乾」には進むという意味が含まれ、「為」は目的の前置きに使う言葉、「天」はこの場合、物事を成すための基本と考えられます。
つまり簡単言うと「乾為天」は物事を成就させる方法が、龍に例えて書かれているのです。
「乾為天」は6つの龍による段階があります。
①潜龍(潜龍用うるなかれ)
これは「何をするべきなのか」「どのように生きるのか」と悩んでいる状態であり、まだ世に出て何も成していない人を指し、まだ世に出るタイミングではない事を説いています。
そして「これをやるのだ」と決して揺るがない志を打ち立て、次のステージに進みます。
②見龍(見龍田に在り。大人を見るに利ろし)
見龍の時期は基礎固めの期間です。
この時期は自分の目指す業界の先達に教えを乞う必要があります。
その人から物事の基本を教わり、自分の身を固めます。
それが叶わないなら本の中の人物でも良いでしょう。
とにかく必要だと感じたものは全て吸収して成長を目指します。
③終日乾乾(君子終日乾乾、夕べに惕若たり。けれども咎なし)
乾乾は繰り返し、終日は一日を振り返る。
つまり毎日の勉強・仕事を積極的に繰り返し、寝る前には一日を振り返り反省し、翌日に活かす。
まさに修業期間の在るべき姿です。
④躍龍(或いは躍りて淵に在り。咎なし)
この時期になると志を成し遂げるために必要な能力は、あなたの身に宿っています。
そうなると次はいよいよ目標に向かってアクセルを踏むときです。
しかし、世は変易であるため「時中」を見極める必要があります。
つまり「進むべきか」「待つべきか」慎重に判断することを説いています。
⑤飛龍(飛龍天に在り。 大人を見るに利ろし)
飛龍の時期はあなたが身に着けた能力が存分に発揮されている状態です。
しかし調子の良い時は、足元をすくわれやすい時でもあります。
この時には、信頼に足る人物の意見には耳を傾けることです。
⑥亢龍(亢龍悔あり)
この時期はすでにあなたが物事を成就させては良いが、驕り高ぶっている時期を指しています。
登り切った龍はそれ以上に登る事はありません。
悔いの残らないように生活することです。
この後にも卦辞があり、
彖に曰く、大いなるかな乾元、万物資りて始む。すなわち天を統ぶ。雲行き雨施し、品物形を流く。大いに終始を明らかにし、六位時に成る。時に六龍に ~略~ (「乾為天【彖伝】)
と続きますが、乾為天はボリュームが多いので解説するのは控えます。。。
まとめ
「易経」説卦伝の「天地人三才」より
「理想は天、現実は地、実現は人であり、この天地人三才を一貫する者、すなわち理想を空想たらしめずして熱烈に三才」の欣求し、しかも確固として現実に立脚しつつ、着々理想の実現に努力する真剣の生活者を王と言う。王の「三」は天地人三才を表し、真中の「|」は一貫実現を示すものと『説文』にも説いている。」※説文 漢の昨慎者古代の漢字字書
(「東洋倫理概論 いかに生くべきか」安岡正篤著より)
また、天を父とし、地を母として、その中間を人とする考え方もあります。
背筋がシャキッとする教えですね。
安岡正篤は東洋哲学の研究者であり、東洋哲学を愛した人物です。
彼は西洋哲学にも精通していますが、それでも幼き頃から親しんだ東洋哲学を好みました。
どちらが優れているとは言いませんが、現代では科学的な発達よりも精神的な発達が必要な時代と言われている事実は変わりません。
「乾為天」は「易経」の中でも入門編として知られています。
これを機に一読してみるのも良いかもしれません。
参考文献
「易経(上・下)」高田真治・後藤基巳訳
「超訳 易経 陽 ー乾為天ー」竹村亞希
「東洋倫理概論 いかに生くべきか」安岡正篤